それぞれの役割

「ちょっとあんた、死にたいのかい!」  鋭い怒号と槍の矛先が、積み上げられた魔物の屍骸に取り囲まれ佇む男へと向けられる。男はゆるりと振り返ると、かすかに小首を傾げた。討伐を終えてもなお槍をつがえている女を見つめるその整った顔立ちに表情はなく、べっとりとした返り血と細かな傷だけを張り付けたまま、ただ静かに言葉を返す。 「そんなつもりはありませんが。死にたいと思うのなら、僧侶である貴女を雇ったりしませんよ」 「ならなんで魔物の群れに突っ込んでいくんだい! 討伐とはいえ考えなしの猪じゃないんだ、そんなんじゃ死にいくようなもんじゃないかっ」  静かな男とは対照的に、女は烈火のごとき形相で声を張り上げ、手に持った槍をどすりと地面へつき立てた。苛立ちからか眉と目はつり上がり、淡い墨を流したような髪の毛先までもが震えている。 「戦士である私が前へ出て敵を引き付けながら戦うのは当然ではありませんか? その方がタマキさんは回復に専念できると思ったのですが」  ――ペイシェの言い分はもっともではある。しかし。タマキは額をおさえ息を吐いた。 「あんたのソレは度が過ぎてるって言ってるんだ。全部自分に引き付けようとするから余計なキズまで作ってさ」 「余計なキズ、ですか」  考え込むように俯いたペイシェであったが、少し間を置いてああ、と合点がいったように頷きタマキへと頭を下げる。 「タマキさんの回復が間に合わない、ということでしょうか。配慮が足りず申し訳ありません」 「……ッ、バカにするんじゃないよ!」  勢い良く振り上げたタマキの指先から淡い緑色の光がこぼれ、ペイシェの顔についた細かな傷たちは跡形も無く消えていく。 「あんたひとりの回復が間に合わなくなるほど酷い腕前の僧侶じゃないよ。けどね、どれだけ後で癒せても受ける時の痛みは変わらないだろ? いくらあたしが僧侶だからって、ペイシェが全部引き受ける必要は無いんだ」 「痛み、ですか。ですが……」 「いいかい」  言葉を返そうとしたペイシェの鼻先に、槍先が突きつけられた。ぺりり、と顔に張り付いた血のりが乾いて剥がれ落ちる。 「あたしにだって武芸の心得はあるんだ。敵の一匹や二匹こっちに来たところで軽くあしらえるさ。あんたに無茶してまで守ってもらうほど、あたしは弱くない。甘く見てもらっちゃ困るね」  ペイシェは眉ひとつ動かさずに鋭い光を放つ刃先を見つめていたが、暫くすると居ずまいを正し再度タマキへと頭を下げた。 「貴女を侮ったつもりも、無茶をしたつもりも無かったのですが……気分を害してしまったならすみません。今後は一匹や二匹ほど、タマキさんの所へ向かわせるよう善処しましょう」 「数の問題じゃあ無いんだけどね……まあもう良いさ。あんたの言葉に悪気があったわけじゃないのはよぉく分かったから」  いまいち話を理解していない気もするが、ウェディのくせに表情どころかヒレひとつ動かさないこの男に、これ以上何をいっても自分の独り相撲にしかならないだろう。とたんに馬鹿馬鹿しくなったタマキは槍をおさめ、踵を返すとじゃあ帰りもよろしくとだけ告げる。 「有難うございます。……タマキさんは優しい方ですね」  思いがけない言葉に振り返れば、頭を上げたペイシェの口角がほんの僅かばかり上がっている。つられてタマキも笑ってみせた。 「あんたはちょっと変なヤツだね」

リプで絡みを考える2にて書かせて頂いた小話です。
あおねこさん宅のタマキさんをお借りしました。
この後も時々一緒にPT組んだりしていたら良いな。